幻のタキタロウは不在であった旧朝日村大鳥池行
3時間歩き通して、小さな峠に上がると樹林の間に湖面が見え始めた。林の中の登山道を右折すると小屋の前に出て、眼前に湖が広がった。夕暮れの大鳥池は飽くまでも静かで、鏡のようであった。遂に来たのだ。タキタロウの棲む山中の池に。一人小屋前ベンチに座って、タキタロウの話を思い出した。
約25年前のことで、帰郷したら、山形では朝日連峰麓の大鳥池にタキタロウが見付かって騒動が持ち上がっていた。朝日村山奥大鳥池に棲む2mもある巨大魚で、これまでも目撃者や更には食べた者もいたという。岩魚の一種との説があり、地元では10数年ごとに話題になるらしい。帰宅して家族に話したら、長女が、知ってるよと3年の学習(1983年8月号)を見せてくれた。その中には、“まぼろしの魚タキタロウはいるか?”が特集されていた。それ以来我が家では、タキタロウは周知となり、長女をタキタロちゃんと呼んで通じるまでになった。長女も覚えていて自分の結婚式、両親への詞の中で触れてくれた。ハイキングに熱中してからは、いつかは大鳥池へタキタロウに会いに行きたいと思うようになった。
新幹線に乗り新潟駅へ出て、羽越線に乗り継ぎ鶴岡駅前からはバスに乗車。旧朝日村(現鶴岡市)上田沢からは会員バスで泡滝ダムまで入り、大鳥池を目指した。大鳥川沿いの登山道は、予想通りアップダウンは少なく、順調に進む。未だ川幅は広く、周囲の山からは沢が滝となって川へと落ちている。先程対岸には雪渓を見た。下る登山者2,3人と会い挨拶を交わす。単調な山道に現在地が不明で、山毛欅の下で休み、地図を見る。チェックした通り、沢を吊橋で渡るとブナ林に入り、コース半ば手前と読む。二度目の大沢に架かる橋に至り、池までは1時間20分位だろう。徐々に道も傾斜が増して上り坂となる。
事前の調査で最後の1時間はきつい上りと教えられた。そろそろかなと地図を出すと小さなギザギザ線が重なっている。やはり上りの葛籠折れを繰り返し、トラバース状の急坂は歩き難い。前方から人声が聞こえ始め、上りの集団に追い付いてしまった。酒田西高登山部一行。ザックが重いのだろう。小生に、先頭の先生が池までの時間を尋ねた。15分位と返事をして先行した。
小屋前で管理人に、タキタロウの目撃はと聞いたら、首を横に振った。自炊の小屋では、駅前で求めたお握りに、お湯を貰いカップラーメンを夕食とした。予想外の立派な小屋で、広い部屋を一人占めにし18時過ぎには就寝。寝袋は長男に借りて持参した。
翌朝3時過ぎには目が覚めた。階下の高校生達が登山準備を開始して五月蠅い。朝の散歩に池端を歩く。早朝の大鳥池は靄が漂い一層神秘的だ。タキタロウは人間達の騒ぎに呆れて池底へ身を潜めているのだろうか。それとも更に山奥へと姿を隠したのであろうか。タキタロウには会えなかったがほぼ満足し、6時過ぎ、簡単な朝食を済ませて、再訪への余韻を残しながら下山した。 (09/8/16,17歩く 13回卆 工藤 莞司)
0 件のコメント:
コメントを投稿