2010年6月14日月曜日

書評・その他

夏休みまであと5週間。今が辛抱のし時かな。仕事量の多さだけでなく、大変
な生徒にてこずり、大変な「先生」まで抱えてげっそりしてるのです。
そんな中、楽しみは通勤電車の読書。休日の本屋。喫茶店でのコーヒー、煙
草、文庫本の3点セット。
ああ、この一行に出会うためにこの本を読んだんだよなあ、という文にめぐり
合うことが結構ある。
①トニ・モリスン「ビラウ゛ド」ハヤカワepi文庫
この文はどうよ。
「時間の話をしてたんだよ。時間を信じるなんて、わたしにはとても難しいこ
となのさ。あるものは過ぎていく。どんどんと。あるものは、ずっとそのま
ま、とどまってる。過ぎていかないのは、わたしが繰り返し繰り返し思い出す
せいだと思ったもんだよ。わかるかい?あるものは、けろっと忘れちまう。別
のものは、絶対忘れない。でも、そうじゃない。場所なんだね。場所がまだそ
こにあるんだよ。家が焼け落ちれば、家は消えちまうけど、でもその場所はー
つまりその家の姿や形のことだけどーとどまるんだよ。しかも、わたしの繰り
返し蘇ってくる思い出の中にとどまるだけじゃなくて、現実に、この世の中に
とどまってるんだよ。わたしが思い出すのは、わたしの頭の外、実際にそこい
らに漂っている姿や形なんだよ。つまりね、たとえ、わたしがそのことを考え
なくっても、たとえ、わたしが死んでしまっても、わたしがしたり、知った
り、見たりしたものの姿や形は、この世に残るってわけだよ。それが起こった
場所にちゃんと存在するんだよ」
②松田美智子「新潟少女監禁事件」朝日文庫
9年2ヶ月の監禁の壮絶な実態が、恐ろしくリアルに描かれていて、あらためて
この男の異常さが浮彫りになってくる。裁判の様子を読むかぎり、この男は
「直らない」。でもって、こういうやつは、わりと身近にいる。
松田美智子は文章がかなり上手い。
ちなみに彼女の元夫は俳優の松田優作。
③河合香織「帰りたくない」ー少女沖縄連れ去り事件ー 新潮文庫
47歳の男が10歳の少女を連れまわしていた事件だが、連れまわしていたのは少
女の方だった。驚くのは男の方ではなく少女の方。
河合香織は松田美智子のように文章は上手くないが、がんばって書いてる感
じ。「セックスボランティア」もたいしたことなかったから、これから伸びる
のか微妙。
④永井均「マンガは哲学する」岩波現代文庫
ニーチェ研究家によるマンガ論。面白い。かなりの数のマンガ家と作品が紹介
されている。たとえば…
藤子・F・不二雄「気楽に殺ろうよ」、吉田戦車「伝染るんです。」、萩尾望
都「半神」、梅図かずお「洗礼」、諸星大二郎「子供の遊び」、業田良家「自
虐の詩」、つげ義春「無能の人」、赤塚不二夫「天才バカボン」、永井豪「デ
ビルマン」、岩明均「寄生獣」…ほかにもいっぱい。解説は萩尾望都。
まえがきからして痛快だよ。「私はまじめな話がきらいである。この世の規範
や約束事をこえた、途方もないくらいまじめな話ならいい。少なくともニー
チェのような水準のまじめさなら、まあゆるせる。中途半端にまじめな話はだ
めだ。ところが、世の中はそうした中途半端にまじめな話で満ちあふれてい
る。」
⑤木田元「反哲学入門」新潮文庫
木田元は読もうかなあ、どうしようかなあとずっと迷っていたが、読んでし
まった。略歴見たら、山形県出身と書いてあったから読んだ。お父さんは新庄
市長もしていた有名な人だったらしい。
解説の三浦雅士も、わかりやす過ぎると書いていたが、本当に、西洋哲学の流
れが全部わかってしまう本だ。この人頭いいわ。
哲学の流れを3つに区分している。①ソクラテス、プラトン以前、②ソクラテ
ス、プラトンからニーチェ、ハイデガーまで、③ニーチェ、ハイデガーから現
代。世界の成り立ちは「作られている」か「成っている」かのどちらかだ。②
は「作られている」派。もし世界が作られたものだとしたら、設計図があるは
ずだ。その設計図にあたるのが、プラトンのいうイデアである。作られた世界
は設計図どおりではない。不備がある。だから作られた世界よりもイデアの方
が上位である。人間でいうと、世界は身体であり、イデアは精神である。精神
上位の考え方だ。キリスト教は、このプラトン主義にその発展を促されてきた
感がある。
しかし、この「作られた」世界観は、西洋の特異な考え方にすぎない。この世
界をイデアの世界から、つまり自分をこの世界から離して、神の視点から眺め
ることだ。自分は自然の中の一部であると考えてきた日本人、東洋人には哲学
はわからなくて当たり前だし、わかる必要もない。
「作られた」世界とは、全く逆に、世界は「成っている」と考えたのが、ソク
ラテス以前を研究していたニーチェである。それは哲学ではない。反哲学であ
る。明解だよね。
哲学者ナンバーワンはハイデガーだと思うが、人間的にはかなり嫌なやつだっ
た、とか、ニーチェは妹と近親相姦だったのでは?とか、エピソードもいっぱ
いで面白い。

吉岡ギャラリーはどうなってるの?という質問を時々うけるが、まあ、来年の
今ごろは、ギャラリー物件を見つけて、内装にとりかかっている予定で、ギャ
ラリー代はいくらにするか、とか、企画展はどうしようか、とか考えてると思
う。

ニューヨークリポート完成。今印刷中。8月には、個展の案内状といっしょに
送りますね。

(吉岡 政美:昭和56年卒、互一会)

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